大黒さまの物語
胸のあたりにぽっかりと大きな穴を持つ男の人がいました。オオアナムチノミコトと呼ばれる男の人でした。
オオアナムチは多くの兄弟がいるなかの末っ子でした。まだまだ若いオオアナムチは兄たちの仕事を手伝いますが、自分の仕事を持つことができていません。
あるお兄さんは会社の社長さんでした。
あるお兄さんは商社でバリバリ働いています。
みんな輝いているお兄さんたちを見て育ったオオアナムチは自分には何も持っていないことをよく知っています。
家も持っていないし、お金も持っていない。
オオアナムチは自分がちっぽけのように感じていました。
ある日、兄たちがとあるお姫様に会いに行くという。それを八上姫といいました。
もしかしたら素晴らしい兄たちだからこそ兄たちの中の誰かが見初められるのではないか? オオアナムチはそのように思いました。
そして、オオアナムチも、荷物持ちとして兄たちについていくことにしました。
兄たちはどんどん先に行ってしまいます、オオアナムチは荷物を抱えているからこそ、少し遅れて歩いていました。
すると道には眠っているうさぎさんがいました。
向こうの方には亀が歩いていました。
👦🏻「(っ’ヮ’c)ワア、とっても気持ちよさそう。オオアナヌチもォ、荷物重いし、ちゅかれちゃったカモ( ー̀֊ー́ )ちょっと寝ちゃおう(¦3[▓▓]」
幸せそうに眠っているうさぎさんを見て、オオアナムチも、つい腰を下ろして眠りにつきました。
すると、夢のなかでオオアナムチはうさぎさんと仲良くなりました。
種別を超えた友情が芽生えたのです。
夢のなかでうさぎさんはオオアナムチに聞きました。
🐰「オオアナムチさんは、なにが出来るんですか?」
👦🏻「いいえ、なにも出来ません。兄たちのように素晴らしい功績もありません。」
🐰「では、なにを持っていますか?」
👦🏻「いいえ、なにもありません。兄たちのように多くの財産もありません。」
🐰「なにもないんですね。何も出来ないし、何も持っていないんですね。」
オオアナムチはぽっかりと空いた自分の穴をうさぎさんに見せました。
👦🏻「この通り、私には胸に大きな穴が空いているのです。何を持っても埋まらないのです。」
🐰「なるほど。では、此処で会ったのも何かの縁。あなたのその穴を埋めるものを与えてあげましょう。」
オオアナムチが目覚めると、横にはもう眠っているうさぎはいませんでした。カメもいませんでした。
急いで荷物を背負い直し、先に向かった兄たちを追いかけます。
やっとのことで追いついた兄たちは、すでに八上姫と出会っていました。
兄たちは八上姫に、直接的なアプローチで愛を伝えていました。
八上姫は困った顔をしながらも、一人ずつ話をしていました。
最後の最後にオオアナムチとも八上姫は話します。
「孤独ですね」
と八上姫は言いました。八上姫は人を見抜く力がありました。
オオアナムチは八上姫と出会い、自分の心が初めて満たされたような気がしました。ぽっかりと空いている穴が埋まったような気がしたのです。
そして、八上姫はオオアナムチを夫にすることに決めました。
オオアナムチは八上姫に聞きました。
👦🏻「どうして私なのでしょうか。」
「何も持っていないからこそ、いいのです。私が持っているから、あなたには何も必要ありません。」
オオアナムチはうさぎの言っていたことを思い出しました。穴を埋めるものを与えてくれると、うさぎさんは言っていました。
それからというもの、オオアナムチは八上姫と共に過ごす日々でした。
そして、オオアナムチは、姫のために立派な男になりたいと思うようになりました。
姫が持っているものを与えられるのではなく、自分が姫に与えたいと思ったのです。
オオアナムチは兄たちに頼み込み、男にしてもらう為、修行をつけてもらいました。
ときに兄の理不尽な怒りに耐え、毎日の仕事にあけくれ、修行をしました。
ある日、兄のひとりがこのように言いました。
「地上の世界での男としてはパーペキだ。もうすでに教えることは無い。ただ、この世界には地下の世界がある。地下世界でも男を磨いてこい。そして、王スサノオに認められ、婚姻の許可をもらってくるんだ。」
オオアナムチはこくりと頷きました。これは姫のためであり、自分のためでもあると思いました。
オオアナムチは姫に、地下へいき、男を磨いてくると伝えたところ、大泣きされてしまいました。
しかし、姫は気丈にも「いってらっしゃい」といい、待ってくれると言いました。
「帰ってきたら、結婚しよう。」
キザに言い残し、オオアナムチは地下へ向かいました。
地下にはつややかな女性がいました。八上姫とは全く違う――。ぐいぐいと攻めてくるようなタイプの女性でした。
オオアナムチは断固として拒絶しました。なぜならば、オオアナムチの空いていた穴にはすっぽりと八上姫が入っているからこそ、ほかの女性が入る隙がありません。
地下での生活は過酷でした。
誰も助けてくれません。いるのはムカデ、ヘビなどの毒を持つような生き物ばかり。
そして何よりも怖いのは、地下の王スサノオでした。
地下の王は厳しくオオアナムチへ指導しました。
蛇の試練。悪口を言われる試練です。耐えられるでしょうか。
ムカデとハチの試練では、針のむしろに合う試練です。耐えられるでしょうか。
音のなる矢を放ち、とってくる試練では火攻めが起こります。言われた通りにやったら八方塞がりとなる試練です。耐えられるでしょうか。
そして、王スサノオのあたまにいるムカデをとる試練。妄想に耐える試練です。耐えられるでしょうか。(この試練は3年ほどの月日が必要でした。)
オオアナムチは見事、悪口、針のむしろ、八方塞がり、妄想に耐え抜きました。
王スサノオはオオアナムチの地下の試練の合格祝いに、「生太刀(いくたち)」・「生弓矢(いくゆみや)」・「天の詔琴(あめののりごと)」を与えました。
刀は生命を与える刀、弓矢は生命を与える弓矢。そして琴は天からのお告げに使う琴です。
刀は蛇の試練に耐えた記念品です。悪口を言われても、牙を向かれても、オオアナムチは立ち向かうことができるようになりました。
弓矢はハチとムカデの試練に耐えた記念品です。針のむしろになっても、オオアナムチは立ち向かうことができるようになりました。
八方塞がりになるようなことがあっても、神のお告げをもらい、なんとか切り抜ける力も得たのです。琴はその記念品です。
頭のなかに妄想や思い込みが起きたとしても、なんとか自分で切り抜けられるようになったオオアナムチは気づきます。
自分を未熟だと思いこんでいたのは自分自身であったのだ、と。
元々は兄たちも、八上姫も、スサノオも。全員オオアナムチを認めてくれていたのでした。
しかし、認められていないとオオアナムチは勝手に思いこんでいたのです。
オオアナムチは、ふと八上姫のことを思い出しました。
そしてスサノオに刀と弓矢と琴を返しました。
「私には必要がありません。刀がなくとも、弓矢がなくとも、琴による神の予言がなくとも、向こうの世界にいる姫を守ることが出来る。知恵と優しさがあれば、姫は笑ってくれる。」
オオアナムチは地上に戻ることにしました。
何も必要ないのです。なにかを持ち帰る必要もありません。
オオアナムチは急ぎ足となります。
必要なのは、家で待っている人がいることでした。
家で誰かが待ってくれているから、オオアナムチの心の穴は塞がるのです。
ふと、うさぎさんのことを思い出しました。
あのうさぎさんは神の使いだったのだろうか。
終わり